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2024.12.09

香水雑学|合成香料という芸術

香りの世界は不思議です。たったひと嗅ぎで私たちを過去の記憶に連れ戻したり、知らない場所へと誘ってくれる。そんな香りが、自然だけでなく、科学の力から生まれると知ったとき、その美しさと奥深さに心を動かされました。合成香料とは、まるで人の手によって紡がれる見えない芸術のように感じます。

香りを作る旅は、まず「自然」から始まります。ジャスミンやバニラ、シトラスの香り、これらの美しさを再現するために、まずその香りを構成する化学成分が詳しく分析されます。例えば、ジャスミンの香りの中には「ベンジルアセテート」や「インドール」と呼ばれる化合物が含まれています。それぞれが微妙なバランスで混じり合い、あの甘くて清らかな香りが生まれているのです。この分析には、最新の科学技術が使われており、まるで自然の秘密をそっと覗いているような気がします。

科学者たちは、その香りを作り出す分子の設計図をもとに、化学反応を駆使して一つひとつの香りを合成していきます。ここで使われるのは、さまざまな反応法です。例えば、「エステル化反応」と呼ばれる手法では、酢酸とエタノールを組み合わせて「酢酸エチル」というパイナップルのような香りを作ります。また、自然由来の物質を化学的に修飾することで、元の香りにさらなる深みや新しさを加えることもあります。たとえば、テレピン油という松から採れる物質を加工すると、レモンやミントのような香りを作ることができるのです。

こうした工程を経て完成した香料は、それだけでは終わりません。次に、調香師の感性と技術によって、複数の香料が巧みに組み合わされます。フルーティーな甘さを持つ成分と、スパイシーなアクセントを加える成分を調和させることで、唯一無二の香りが生まれます。たとえば、梨のような爽やかさを持つ「エチルヘキサノエート」と、青リンゴの香りが特徴の「ヘキシルアセテート」をブレンドすると、みずみずしい果実の香りが広がるのです。この過程は、まるで香りという目に見えないキャンバスに、筆を走らせる画家のようです。

完成した香料は、さらに安定性や安全性を検証されます。時間が経つと香りがどのように変化するのか、肌に直接触れても問題がないか。これらの厳しいテストを通じて、ようやく私たちの手元に届く香りが誕生します。

合成香料の魅力は、自然の香りを忠実に再現するだけではありません。自然界には存在しない、全く新しい香りを作り出せるという点にもあります。科学と感性が出会うことで、今まで知らなかった美しさや驚きを私たちにもたらしてくれるのです。

合成香料とは、単なる「化学」の産物ではなく、人間の創造力と自然へのリスペクトが織りなす小さな芸術です。その背景にある知恵や工夫に触れると、私たちが普段身に纏う香りがいっそう特別なものに感じられるのではないでしょうか。香りの持つ力は、科学を通してさらに広がり、私たちの心に寄り添い続けてくれるのだと思います。

 

 





SHO ISHIZAKA/石坂将
フレグランスプロデューサー/株式会社セントネーションズ 代表取締役。
1982年生まれ。学習院大学卒業後、英国ランカスター大学大学院にて修士課程を修了。帰国後フレグランス業界に従事し、数多くの商品をプロデュース。2010年にはプロデュース商品が日本フレグランス大賞を受賞。2012年1月にフレグランスメーカー「セントネーションズ」を設立以降、オリジナルブランド「ショーレイヤード」の企画・開発のほか、独自のネットワークの強みを生かし、あらゆるコンテンツとフレグランスを掛け合わせ、数多くの著名人やスポーツ選手、ブランドとのプロデュース商品を手がける。