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2025.03.12

香りを纏う空間|香水のお店とインテリアの考え方

香りを売るということは、目に見えないものを届けるということ。だからこそ、香水のお店の空間づくりには、ただ「商品を並べる」以上の工夫が必要になる。お客様が香りを選ぶ時間そのものが、特別な体験になるように。そのために、私はこれまで、さまざまな香水の店舗をつくってきた。

 

香りが主役になる空間

香水は繊細なものだ。たとえば、美しいボトルが並ぶディスプレイでも、派手すぎれば香りの印象を邪魔してしまう。大切なのは、余白をつくること。インテリアが語りすぎないことで、香りがより際立つ空間になる。

私が手がける香水のお店では、シンプルで洗練されたデザインを意識している。余分な装飾は控えめにして、香りそのものが主役になるように。静かなギャラリーのような空間に、そっとボトルが並ぶ。そこに流れるのは、無理に演出された世界ではなく、香りの持つ空気感そのもの。

香水の店をつくるとき、私は「お客様の五感」を想像する。視覚、触覚、そして嗅覚。照明は柔らかく、落ち着いた光が香水のボトルを静かに照らす。ディスプレイの高さは、お客様が自然に香りを手に取れるよう計算する。

また、店内に流れる音も重要だ。香りは、それを纏う人の気分に大きく影響を与えるもの。だから、過剰に賑やかな音楽ではなく、静かに溶け込むようなサウンドがいい。落ち着いたジャズ、あるいは自然の音に近いもの。音と香りが調和することで、空間に統一感が生まれる。

 

香りを「選ぶ」時間のデザイン

香水選びは、ただの買い物ではなく、ひとつの体験だ。だからこそ、お客様が心地よく香りと向き合える時間をつくることが大切になる。

たとえば、ひとつの香りを試して、その余韻を味わうための「間(ま)」が必要だ。すぐに次の香りを嗅ぐのではなく、店内を少し歩いたり、別のスペースで休憩したり。香水は、第一印象だけでなく、時間が経つにつれて変化していく。その変化を楽しめる空間づくりが大切だ。

私が考える理想の香水店は、お客様が「香りに出会う場」であると同時に、「自分自身と向き合う場」でもある。香りは、その人の記憶や感情に寄り添うものだからこそ、ただ香水を試すのではなく、ゆっくりとその香りの世界に浸る時間が必要だ。

 

インテリアは「香りの物語」を語るもの

香りには、それぞれ物語がある。だから、インテリアもまた、その物語を表現する役割を持っている。たとえば、ある香水が「夏の海辺」をイメージしたものなら、店舗のインテリアには、ほんの少しの青やガラスの透明感を取り入れる。あるいは、「古い図書館のような落ち着き」を持つ香りなら、ウッドの温もりを感じるディスプレイが似合う。

そうすることで、お客様は視覚的にも、その香りの世界に入り込むことができる。香りをただ売るのではなく、香りを「感じる空間」として演出すること。それが、私のインテリアの考え方の基本になっている。

 

香水の店は「香りのアートギャラリー」

香りは、目に見えない芸術のようなものだ。だからこそ、香水の店舗は、単なる「商品を売る場所」ではなく、香りをアートのように楽しむ場所でありたい。

お客様が香りを手に取るたびに、何かを感じ、何かを思い出し、何かに出会う。そんな体験が生まれる場所を、これからもつくっていきたい。

香りは、その人の人生をそっと彩るもの。だからこそ、香りを選ぶ時間もまた、美しくあってほしいと願っている。




SHO ISHIZAKA/石坂将
フレグランスプロデューサー/株式会社セントネーションズ 代表取締役。
1982年生まれ。学習院大学卒業後、英国ランカスター大学大学院にて修士課程を修了。帰国後フレグランス業界に従事し、数多くの商品をプロデュース。2010年にはプロデュース商品が日本フレグランス大賞を受賞。2012年1月にフレグランスメーカー「セントネーションズ」を設立以降、オリジナルブランド「ショーレイヤード」の企画・開発のほか、独自のネットワークの強みを生かし、あらゆるコンテンツとフレグランスを掛け合わせ、数多くの著名人やスポーツ選手、ブランドとのプロデュース商品を手がける。